福岡高等裁判所 昭和26年(う)1220号 判決 1951年8月25日
控訴人 被告人 宮崎助義
弁護人 菖蒲逸良
検察官 納富恒憲関与
主文
原判決中被告人宮崎助義の関係部分を破棄する。
本件を長崎地方裁判所に差戻す。
理由
弁護人菖蒲逸良の控訴趣意は同人の提出した控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。
職権を以つて記録を調査するに原判決は、
被告人宮崎助義は賍物たるの情を知りながら
(1)同年六月二十九日前記神代煙草販売所に弟憲一を使者として赴かしめ原審相被告人森藤羨明より同人が横領した現金十万円を受け取らしめて之を収受し、
(2)同年七月四日神代煙草販売所に弟憲一を使者として赴かしめ原審相被告人森藤羨明より同人が横領した現金十万円を受け取らしめて之を収受し、
(3)同年八月十二日頃神代煙草販売所において原審相被告人森藤羨明より同人の横領した現金三万円を受け取つて収受し、
(4)同年八月十五日神代煙草販売所において原審相被告人森藤羨明より同人の横領した現金五万円を受け取り収受し
と認定しこれに賍物収受罪の適条たる刑法第二百五十六条第一項の規定を適用していることは原判決上明かなところである。
しかし右の判示では被告人宮崎が如何なる関係で森藤羨明より金員を収受したのか明らかでない。尤も原判示第一の相被告人森藤の横領罪の認定には森藤が被告人に前記(1) 乃至(4) の各金員を貸与して横領したと判示しているのであるから被告人宮崎の前記摘示にも被告人宮崎が相被告人森藤から原判示の金員を貸与を受けて収受したとの趣旨が判示されているのであるといえないことはないが、賍物収受罪は賍物たるの情を知つて無償で金品を収得した場合に限り成立するのであるから無利息消費貸借の場合は本罪を構成するも利息附消費貸借の如く有償行為に基いて金員を収得した場合は賍物故買罪を構成し賍物収受罪を構成するものではない。従つて消費貸借が利息附か無利息かによつて適用条文を異にするのである以上その何れかの事実を明らかにしなくてはならないのに原判決はこの点を明らかにしていない。即ち原判決には理由不備の違法がありその違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄を免れない。よつて本件控訴は理由があるから弁護人の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第四百条本文を適用して原判決中被告人宮崎助義の関係部分を破棄し本件を長崎地方裁判所に差し戻すこととし主文のとおり判決する。
(裁判長判事 谷本寛 判事 竹下利之右衛門 判事 二階信一)